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2019
05.30

ベストプログラム

体力がなくなってやらなくなったベストプログラム。3年間やっていなかったので3シーズンの中からベスト30をピックしようと思います。カテゴリー、所属国等のバランスは一切取りません。選考基準は僕の好みかどうかです。

※クソ長いです。

30 キャロラーヌ・スシース&シェーン・フィルス(カナダ)
2017-2019シーズン FD"I Won't Dance" "Cheek To Cheek"


2017-2018シーズンに好評を博し、なかなか結果の出せなかった2018-2019シーズンのカナダ選手権で復活させたプログラムです。構成の骨組みに変更はありませんが、エレメンツに入るタイミングが変わりました。曲が"Cheek To Cheek"に移る際のエレメンツが、変更前はストレートラインリフトなのに対し、変更後はダンススピンになりました。個人的には、リフトを上げた際に甘い歌声で曲が変わる変更前の構成が好きです。サーキュラーステップをワンフットステップに置き換えると尺が余ってしまうので仕方ないですけどね。このプログラムって「はいはいオタクどもはこういうのが見たいんでしょ?」というプログラムなんですけど、まさにその通りでして、ギャドボワの先生方に地面におでこ擦り付けてお礼言いたいぐらいの良プロです。これで2人が躍進を遂げましたし、世界に名前が知られと思います。「ダンスなんだから踊らなきゃ!ダンスなんだから男は燕尾着なきゃ!」というダンスファンの希望を叶えてくれました。クレームをつけるとすれば、男性が蝶ネクタイを付けなかったところです。なんで胸元開いとんじゃーい。

29 ケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ(カナダ)
2016-2018シーズン EX"ゴースト"


エキシビションプログラムで唯一のランクインです。アイスダンスのしっとり系エキシはおもしろみに欠けるものが多々ありますが彼らは違います。2015-2016シーズンまで滑っていたロミオとジュリエットの"Kissing You"でも一味違う上質な大人の恋愛模様を見せてくれました。映画ゴーストでは主人公の男性が暴漢に襲われて命を落とすのですが、男性は恋人を守るために幽霊として現世に留まるのです。女性には幽霊になった男性の姿は見えませんが、やがて恋人に守られていることを理解します。最後に使命を果たした男性が天国へ旅立つ直前に再会します。暗闇でスポットライトに照らされながら滑る2人は、まさにそのクライマックスのシーンを表現しています。突然ゴーストが流行った時期がありましたけど、僕はウィバポジェのゴーストが一番好きです。

28 リュボーフィ・イリュシェチキナ&ディラン・モスコビッチ(カナダ)
2016-2018シーズン SP"タンゴジェラシー"


イリモーのキャリアハイとなった2016-2017シーズンの作品です。オリンピックシーズンに復活させました。ホールドを組んでから投げるスローフリップ、足をクロスさせてからスパイラルに移行し入るデススパイラルにグッときます。安易に得意のクリムキンイーグルからのデススパイラルを選択しないのがいいんです。きちんと曲想にあった入り方をしています。随所で女性のラインと柔軟性を活かし、フィニッシュ姿勢までエレガンスを失わない大人のタンゴプログラムでした。嫉妬と情念渦巻くアルゼンチンタンゴも好きですけど、上品なコンチネンタルタンゴも好きです。

27 アリョーナ・コストルナヤ(ロシア)
2017-2018シーズン SP"アディオス・ノニーノ"


「ロシアにこんなやべえやつがいるのか」と知ってしまったプログラム。エレメンツの完成度がジュニア選手としては異次元。シニアの選手を入れても大半のエレメンツの完成度が世界で5本の指に数えられるレベル。それだけでもすごいのに、ジュニア選手で"アディオス・ノニーノ"の哀愁を滑りの緩急で表現するという、表現モンスターの片鱗をも見せました。ステップシークエンスで常に膝が曲がってしまうチームエテリ共通の課題も見られません。案の定2018-2019シーズンは、完成度とPCSで同門のクワドプリンセスたちと渡り合いました。カロリーナ・コストナーさんのような唯一無二の選手に成長してほしいです。

26 ケイトリン・ホワイエク&ジャン=リュック・ベイカー(アメリカ)
2016-2018シーズン FD"愛の夢"


「オタクどもはこういうのが見たいんでしょ?」プログラムその2。はいその通りです。2017年全米選手権でのショッキングな転倒を経て、翌シーズンに持ち越しました。2018年大会でのストレートラインリフトでは拳を握りしめながら見守っておりましたよ。今でも安心できないので大きな大会では気合いを込めてリフトを見ています。トレードマークのカーブリフトをコレオリフトとして使用し、女性が爪先を氷にタッチしてフィニッシュする様は、素足の乙女が清泉に爪先をつけて、愛する人と時間を共にする喜びをしみじみと感じているように見えました。これからもダンスらしい演技で我々をブヒブヒ言わせてください。

25 樋渡知樹(アメリカ)
2017-2018シーズン LP"ラスト・オブ・モヒカン"


柔軟性を活かしたY字スパイラル、クリムキンイーグル、スプリットジャンプなどのトリッキーなトランジションが物語をドラマティックに紡ぎます。クドいほどに詰め込まれたトランジションですが、音楽のフレーズに合わせて雄大に滑る部分との対比はできていると思います。それに、アメリカンインディアンの話は外国人にとってはあまりなじみがないので、これぐらい派手な方が、物語が分からなくても感情移入できるのではないかと思いました。樋渡が男らしい表現をできると知ることができたプログラムです。これからもガンガン雄っぽさを推し出した演技を見せてもらいたいです。

24 ヴァネッサ・ジェームス&モルガン・シプレ(フランス)
2016-2018シーズン LP"Sound of Silence"


ヴァネシプの大躍進を支えたプログラムです。このプログラムで初めてヨーロッパ選手権の表彰台に立ち、初めて世界選手権のメダルを掴み取りました。2015-2016シーズンまでは、ツイストリフトに高さはあるのにキャッチができずに失敗ばかりしていたし、ペア経験者の女性に比べて男性のスケーティングスキルが低く、まっすぐにしか進めないので演技が平面的で見応えが薄かったです。彼らが滑る度にスタンブルしないか常に心配でした。2016-2017シーズンからジョン・ジマーマン門下となり、ツイストの問題が解消され、男性のスケーティングスキルが大幅に向上。それに伴いリフトの移動距離や滑らかさも格段に向上しました。このプログラムは4分30秒の間、ほとんど曲に変化がなく、ボーカルに呼応して滑りの強弱をつけないと退屈な演技になってしまいます。ところが、ジマーマンに移ってからの技術力向上で滑るのが可能になったわけです。スピードを上げて弧を描きながら入る3Sの質の高いこと。シングル選手並みの質のジャンプを、長身の2人がやってのけるわけですから当然迫力も出ます。ジャンプが表現の一部になる日が来るなんて思ってもみませんでした。

23 マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ(アメリカ)
2018-2019シーズン FD"プレスリーメドレー"


結成8シーズン目にして、ついに代表作に出会いました。これまでも悪くない作品はありましたが、初見の印象を超えることができなかったり、レベル取りのために振付を改悪するせいで見どころがなくなることが多々ありました。女性の足の怪我の影響でオリンピックシーズンを不本意な形で終えた上に、技術的なピークは過ぎてしまったのかと思っていました。ところがどっこい、トルン杯でのFDを観た瞬間「これだ!」と思いましたね。演技前半の"Fever"では女性の艶やかを余すことなく見せつけてくれます。リフトへの乗車能力の高さも健在でした。ストップパートの指パッチンがポイントになっていてかっこいい。演技後半は前半に帯びた熱が発火して"Burning Love"に。年甲斐もなく踊り狂ってしまう大人のカップルのようでかわいらしい。キャリアも終盤に近いと思いますが、ここにきて上達するとは思ってもみませんでした。スポーツの世界は何が起こるか分かりません。王道から脇道に入って大正解です。

22 リュボーフィ・イリュシェチキナ&ディラン・モスコビッチ(カナダ)
2017-2018シーズン LP"At This Moment"


早くも僕の偏った嗜好が露わに。イリモー2つ目です。2015-2016シーズンのベストプログラム第8位に、SP"Since I've Been Loving You"を選んだので、3シーズン続けてのランクインです。ほらね偏っているでしょう?でもイリモーの大ファンだったか問われると、そんなこともないんです。僕のツボを押さえまくっていたというだけです。デュベデビの2009-2010シーズンLP"追憶"に通じるものがある、切ない恋の物語を演じました。デイヴィソンがコーチなのも、当時を重ねて観てしまいます。男性がいくら愛を囁こうとも、もう終わってしまった恋を振り返らない女性は男性から視線を外し、距離を置こうとします。その様子が手を取るように分かります。キャリアハイだった2016-2017シーズンに比べ動きがかなり悪く、男性の手の負傷もあり、オリンピックには手が届きませんでした。2010年のケイトリン・ウィーバー、2014年のパイパー・ギルスに続き、市民権を取得したカップル競技の選手が、ほぼ確実であったはずのオリンピック出場を逃す例となってしまいました。逆を言うと、次のオリンピックにはリュボーフィ・イリュシェチキナは出場できるということです。新しいパートナーとともに、オリンピックの夢を掴み取ってもらいたいです。

21 アレーヌ・シャルトラン(カナダ)
2017-2019シーズン LP"サンセット大通り"


ストーリー全然知らないけど曲が大好きなんです。この曲はヴィクトリア・ヘルゲソンが2011-2012シーズンのLP(衣装の袖がもふもふしていた)で使用していました。国際Aに出場するレベルの選手に使われることはあまりありません。僕は映画もミュージカルも観たことはありません。調べてみたところ、このプログラムのハイライトの部分は、落ちぶれたサイレント映画のスターが妄想を肥大させて「私は輝かしい日々を取り戻して見せるの、私がいるべき場所に戻るのよ」と完全に狂ってしまうシーンのようです。シャルトランは3枠もあるピョンチャンオリンピック代表枠に漏れてしまう最悪の時期を経て、このプログラムを続けて使用することに決めました。主人公と重なる部分があったのではないかと思います。カナダ選手権でのカムバックは、夢が夢で終わらないことの証明です。完全復活とはいきませんでしたが、また強くなって戻ってきてくれるでしょう。

20 ユンスー・リム(韓国)
2017-2018シーズン LP"Grand Guignol" "オブリビオン" "リベルタンゴ"


"Grand Guignol"を上手く滑れるスケーターはジェイソン・ブラウンだけだと思っていました。彼女も負けず劣らず素晴らしい。パーカッションの激しいビートにトップスピードから入るジャンプがマッチしています。トランジションでの腕の表現もとてもいいです。このしなやかな腕使いこそ、第2のユナ・キムと認められる所以です。曲が"オブリビオン"に変わり、3Loへの助走の導入部分で腕を広げながら滑っています。まるでピンク色の夕焼け空を物悲しげに飛ぶ一羽のカラスのようです。ジュニアの女子選手としてここまでの表現は完璧だったと言えます。最後の"リベルタンゴ"パートは蛇足だった気がします。それがこの順位に止まった理由です。もう一度"Grand Guignol"に戻る方が自然にまとめられたのではないかと。

19 ベティナ・ポポワ&セルゲイ・モズゴフ(ロシア)
2017-2018シーズン FD"カルメン"


まず、彼女はこの4分間ではカルメンを演じているのかという疑問。パートナーが演じているキャラクターを放置して、ベティナ・ポポワがベティナ・ポポワを演じているという方が正しいのではないでしょうか。これはカルメンではないのです。ベティナ・ポポワの心に潜むヤバいものの具現化なのです。中堅でポポモズほど押しの強いステップシークエンスを2つ滑るカップルはそうはいません。画面から飛び出してきそうな圧は、笑えてくるぐらいです。2017-2018シーズンはこのプログラムで名前を売ったので、2018-2019シーズンは伸びると思っていたら少し下手になっていました(怪我もありましたけども)。年明けには盛り返したので、伸びていってほしいです。くれぐれも静かな曲は滑らないようにしてください。

18 ユリア・トゥルッキラ&マティアス・ヴェルスルイス(フィンランド)
2018-2019シーズン RD"Coco de Chanel" "ブエノスアイレスの春" "ポエタ"


2018-2019シーズンは10試合もの国際大会に出場しました。女性がツイズルでレベルを取りこぼしたのは初戦だけでしたが、男性はRD・FD通して20回中13回もレベルと取りこぼしました。シングル出身とはいえど、近年でここまでツイズルが苦手なダンサーは珍しいです。マルガリオ先生をリスペクトしてとんでもない失敗をしないようにしてください。プログラムはタンゴとフラメンコで構成されています。これは珍しいことではないのですが、このプログラムのいい部分は"ちょうどいい"ところです。2人ともシングルからの転向組なので、滑りやフットワークだけで2分50秒のタンゴを表現するのは、おそらく無理だと思うんです。フラメンコでガラッと雰囲気を変えることで、もっさりとした印象を与えずに済んでいます。ミッドラインステップでストップする部分がいいアクセントになっていました。ルックスは言うことない2人なので絵になります。

17 ケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ(カナダ)
2017-2018シーズン SD"Do You Only Wanna Dance"


僕はオリンピックシーズン序盤から疲弊していた。SDが嫌になっていたのだ。毎週末、前半にねっとりさせて後半にサンバ音楽使ってリフトぶん回すという構成を嫌になるほど目にしていたのだ。パターンダンスの課題を考えてもみろ、あれはルンバじゃないか。どうしてルンバよりサンバの方が目立っているんだ。もう嫌だ嫌だああああああああああ……そんな気持ちでいた9月末、オータムクラシックで舞い降りた2人の天使がウィバポジェだったのだ。あっ……サンバがない!舘ひろしの映画"免許がない!"ばりにサンバがない!ボレロで身を寄せ合いながら踊った男女が、軽快なマンボでお互いの心を焦がし合う。そんな姿に胸が躍ります。シーズン序盤とミッドラインステップの振付が変わり、疾走感を重視したものになりました。これは砂浜を駆けてキャッキャウフフしているのでしょう。衣装は赤よりも黒の方がよかったです。大屋政子が付けていそうな南国の派手な髪飾りが素敵でした。アイスダンスでは、オリンピックに出場した24組中21組がサンバを使っていました。ねえ、僕の気持ち分かってもらえます?

16 ヘイヴン・デニー&ブランドン・フレイジャー(アメリカ)
2016-2017シーズン LP"ある日どこかで"


まず第一に僕はこの曲が大好きなんです。同じ曲を使ったマリー=フランス・デュブレイユ&パトリス・ローゾンの2005-2006シーズンFDや、アシュリー・ワグナーの2008-2009シーズンSPが好きでした。でも理由はそれだけではありません。デニフレは2014-2015シーズンを女性の怪我で全欠しました。その間、男性はマリナ・ズエワのところに行って、スケーティングと表現力を磨いていたわけです。ソロスピン後の男性のダイナミックかつしなやかな腕の動きと切ない表情で一気に引き込めるようになったのは、練習の大きな成果と言えるでしょう。そこから得意のリフトで一気に畳みかけます。心が動かされました。第三に僕はこの曲が大好きなんです。

15 ユリア・トゥルッキラ&マティアス・ヴェルスルイス(フィンランド)
2018-2019シーズン FD"ピアノ協奏曲第20番"


1シーズンで2プロがランクインです。僕の好みをよく分かっていらっしゃる。バラの柄の付いた衣装をまとう女性は、バラ園に佇む亜麻色の髪の乙女か、絵画の中の美女か、はたまた春を告げる女神か。いろいろ想像しましたが全部外れでした。インタビューで何について演じているか語っていました。彼らは、花に対して恋に落ちるハチドリを演じているそうです。男性の衣装の緑はハチドリの色だったのです。断じて草ではありません。コレオスピンの出でふんわりと女性を持ち上げるのが素敵です。風に吹かれた花弁がはためくように見えます。スケーティングスキルが発展途上でもまとまりがあるように見えるのは、女性の姿勢やポイントとなる振付時のフリーレッグがきれいに伸びているからだと思います。幼少期からバレエスクールに通っていたのが大きいのかもしれません。クラシック曲がほとんど使われなくなってしまった今、嬉しい選曲でもありました。

14 ミハル・ブレジナ(チェコ)
2016-2017シーズン LP"ワンス・アポン・ア・タイム リミックス"


30個選んだプログラムの中で、僕が普段なら毛嫌いするタイプの路線です。なぜなら4分半で6曲も使用しているからです。こういったプログラムは、往々にして表現が自己完結してしまって、何を演じているのかさっぱり伝わってきません。同じ作曲家の楽曲を使用しているといえど、別々の映画からの曲を組み合わせていますしね。ところがミハルは演じ切れているんですよ。音楽に合わせてしっかりと滑りの強弱を付けています。序盤は重厚な滑りで、カーブを描きながらリンクに存在感をアピールしていきます。その後は細かいフットワークを見せ、徐々に演技の男っぽさが増していきます。憂愁を込めつつも、それを振り切るようにターンからの3Aを着氷し、決闘の舞台へと立つ。そしてハッピーエンドですよ。このプログラムを全肯定できます。ストーリーなんていちいち説明されなくても、想像できてしまいます。

13 ウェンジン・スイ&ツォン・ハン(中国)
2018-2019シーズン LP"Rain, In Your Black Eyes"


僕は過去3シーズンのプログラムはSPの方が好きだったんです。LPは王者感狙いすぎな感じがして、あんまりだったんですよね。特に2017-2018シーズンLP"トゥーランドット"はやりすぎだったと思います。2018-2019シーズンはGPSを欠場し、中国の国内大会で復帰しましたが、LPは滑ることなく、練習映像だけがネットにアップロードされていました。エレメンツを抜いた状態での滑りだったのですが、その時点で僕は惚れ込んでしまいました。冒頭のダンスリフトからして異質です。ゆっくりと手足を伸ばす振付は多く見られるものではありませんから。スローフリップからの後半の盛り上げ方はヤバいですね。コレオシークエンスは、アイスダンスのコレオステップぐらいのボリューム感があります。そこから猛スピードのポジションチェンジでリフトを2つ。身長差が30cmあるジュニアペアのようにグルングルン回していくのが気持ちいい。世界選手権での演技は、2018-2019シーズンの全選手全演技中ベストパフォーマンスでした。あれを現地観戦できた方は幸せものだと思います。女性はこの曲が嫌いなので、ネオクラもういいよマンと化した僕としては、もうこういった曲滑らない希望が持てました。だってこれが最高到達地点だから、別の路線で最高のものを見せてくれる方が嬉しいですもの。史上最高のペアになってください。

12 カリーナ・マンタ&ジョセフ・ジョンソン(アメリカ)
2018-2019シーズン FD"Sweet Dreams"


女性の髪形がアニー・レノックス風味で、見た目からして入りきっています。トランジションでのムーブメントの入れ方、反復の仕方が昔のアイスダンスっぽいです。さすがはクリストファー・ディーンという仕事ぶりです。体をペシャンコになるまで反らせて両膝をついて回転するコレオスライディングがたまりません。ズサーソムリエの僕から格付けAAA認定を出します。彼ら以外でAAAが出るのは、ポポモズの今シーズンの初期のコレオスライディングだけです。コレオステップでのヴォーギングもたまりません。独自の魅力を出して大成功しました。「俯かずに前に進め!」という歌詞に合わせてのローテーショナルリフトは、迷っているすべての人に対して、さらには彼ら自身へのメッセージのように感じます。現役の最後に素晴らしい作品を見せてくれました。

11 エミー・ペルトネン(フィンランド)
2018-2019シーズン LP"SAYURI"


冒頭ジャンプが4本続きます。"まだ日の出た花街を歩いていると、一片の桜の花弁が疏水に落ちた。それを追いかけていったけれど、多くの花弁が堰に折り重なって滞留している。自分もこんな風に一生この街から出ることはできないのだろうか。誰とも視線を合わせず、伏し目がちな少女は幼心にそう思うのであった"という描写を想像できなくもない雰囲気を醸し出しています。妄想力を刺激してくれます。実際にそういった感じのシーンはありますが、こんな具体的なものではありません。少女から大人への成長は、スローパートに入って表現に艶めかしさが加わったところで理解できます。ステップシークエンス中の加速が素晴らしいです。体の残し方なんかも、本当に艶っぽいんですよ。すべての男たちの視線を釘付けにします。柔軟性がある方ではありませんが、曲に合わせたドラマティックなレイバックイナバウアーからイーグル、そしてレイバックスピンで魅せてくれます。さいたまの世界選手権でこれを滑れなかったのが残念です。日本人選手が滑る日本のプログラムよりもしっくりきました。

10 アシュリー・ワグナー(アメリカ)
2017-2018シーズン LP"ラ・ラ・ランド"


2017-2018シーズンに滑る予定だったけれど、よりドラマ性のあるものを求めて"ムーラン・ルージュ"を復活させグランプリシリーズを戦いました。2017-2018シーズンには、ドラマティックなプログラムはたくさん生まれましたが、成熟した女性の表現で魅せるプログラムはほとんどなかったので、皮肉にもこちらで戦い続けた方が個性が際立っていたでしょう。たらればを言っても仕方のないことではありますが、もっと滑り込む時間があれば結果は変わっていたかもしれません。女優での成功を夢見る女性を演じるという点においては、実は"ラ・ラ・ランド"も"ムーラン・ルージュ"も同じなのですよね。イケイケだった頃のアシュリーならサティーンでよかったですが、ベテランと呼ばれる年齢になったからこそミアが似合うわけですよ。今成功を掴まないともう後がない……というリアリティーも表現を後押しします。そしてアシュリーのスケート人生と重ね合わせながら観てしまいます。アシュリーはスケートが伸びるタイプではないので、じっくりスケートを見せる部分というのは意図的に省いているのだと推測できます。すぐにターンや方向転換をするか、エッジに乗って滑るときはスパイラルやポージングで足元以外に注目が集まるように構成しています。振付をしたシェイリーンはアシュリーの長所と短所をよく理解していますね。

9 山隈太一朗(日本)
2018-2019シーズン SP"君の名前で僕を呼んで"


選曲をしたのはお母様らしいですね。母センスがすげえよ母。どんな母だよ母。映画の中から"Hallelujah Junction"と坂本龍一の"M.A.Y. in the Backyard"という曲を組み合わせています。"M.A.Y. in the Backyard"は、ジェフリー・バトルが2008-2009シーズンに滑る予定の曲だったんです。曲目を発表してから引退してしまったので、バトルファンの僕としてはずっとモヤモヤしていました。それが、映画からの曲という形で10年後に滑る選手が現れるなんて感無量。彫像のように美しいけれど、決して純粋無垢ではなく、世の中を斜に構えて見ているような知的な少年。でも、やっぱりそこには理論で解決できないような年相応の心の葛藤があって、自分をコントロールできない。高さのあるジャンプが恋する胸の高鳴りとして、前半のリンクを大きく使った滑りが平静を保とうとする様子として伝わってきます。全日本選手権のときに、カロリーナ・コストナーが滑りそうな曲に思いましたが、そのクラスのスケーターが滑ってこそ演じられる難易度の高い選曲だったと思います。それを自分のものにできていた山隈は、とんでもない芸術派のスケーターに成長するのではないかと期待せざるを得ません。

8 ナタリア・カリシェク&マクシム・スポディレフ(ポーランド)
2016-2017シーズン FD"ダーティ・ダンシング"


このプログラムに関してはあまり説明はいらないですね。観れば分かります。めっちゃダサいんです。最初から最後までずっとダサいんです。60年代と80年代のセンスのダサさが集約され、シルヴィア・ノヴァク先生の振付の古臭さ(でもテクニカルスペシャリストだから点数はちゃんと取れる)で、ダサさが極限にまで高められています。これを観ると絶対に笑顔になってしまうんです。"Time of my life"はナタリー・ペシャラ&ファビアン・ブルザのエキシビションが素敵でしたけど、あの洗練さっぷりとは対極にあって最高でした。これからもずっとダサくいてください。洗練されたら承知しません。

7 マライア・ベル(アメリカ)
2016-2018シーズン SP"シカゴ"


超絶スタイルで小悪魔ロキシーを演じました。2シーズン使ったプログラムですが、2016-2017シーズンの序盤から振付は変わりました。ジャンプ前の振付が簡略化されたのでジャンプは跳びやすくなりましたが、見応えとしては振付がたくさん入っている方が上です。ステップシークエンスの最初と最後も手を加えています。変更前の方はピョンピョン跳ねる振付が多いので、無邪気さが一層際立ちます。罪を犯したロキシーが悪びれることなく塀の外に出て、華々しい舞台に立ち喝采を浴びる様子が伝わってきます。初期は衣装に髪飾りがあったのに外してしまってもったいない。衣装と同じでギランギランで素敵なのに。

6 パイパー・ギルス&ポール・ポワリエ(カナダ)
2017-2018シーズン FD"007"


元々最初のFDは"ペリー・メイスン"でしたが分かり辛かった。前のオリンピックシーズンは、オリンピックにこそ出られませんでしたが"ヒッチコック"という名作を世に送り出してくれましたから、その分ガックリきました。オリンピックまで2カ月の時点でプログラム変更となりましたが、なんと成功しちゃったんですね。しかも振付の大半を前のプログラムから流用したんです。それで成功しちゃったんです。不思議なもんだ。彼らは他の選手がやっていることとは絶対に違うことをするという点が優れています。ジェームス・ボンドを演じるとなれば男子はアクションで女子はセクシー。こういうのばかりですよ。彼らはそういったテンプレートになりがちな部分を避けに避けて、紫煙のくゆるウィスキーバーで駆け引きをするかのようなボンドの様子を見せてくれました。曲調が激しくなったシーンは、寝返ったボンドガールを車の助手席に乗せて追手を巻く様子に見えます。そこには何の焦りもなくて、ジェルで固められた髪は一切乱れがない。いやあ痺れましたね。フィギュアスケート界に"007"プログラムの新たな形を提案してくれました。まだまだやれることはあるぞと。それに加えて数十年前のスターみたいなルックスじゃないですか。それがまあ映えることなんの。

5 宮原知子(日本)
2018-2019シーズン SP"Song For The Little Sparrow"


シーズン中に振付を手直ししたのでいくつか変わっている部分があります。3Lz-3T着氷時の方向転換が変わったのと、全体的にですが、手を上げるタイミングがゆっくりになりました。曲との調和を重視したのだと思います。ステップシークエンス中のスパイラルはランジに変更になりました。これは、スパイラルを入れることでその直前でステップシークエンスが終わってしまったと判断されるのを防ぐためだそうです。ステップシークエンスには"表面を十分に活用しなければならない"という要件があります。きっと、スパイラルがステップシークエンスの一部としてカウントされなくても、その要件は満たすことができると思います。ただし、スパイラル以降をトランジションだと判断されると、GOEに関わってくるんです。連続ツイズルはこのプログラムの肝なので、絶対にステップシークエンスの一部として判断してもらいたいと考えた。だからランジに変更したのでしょうね。実際、僕はステップシークエンスはスパイラルの前で終わりだと思っていました。スパイラルの方がドラマティックですが、ランジにする方がリスクヘッジできるのです。1990年代のムービースターを演じるということで、レッドカーペットでフラッシュを浴びる女優としては白い衣装が華やかで似合っていました。衣装単体で見ても白い方はかなりお気に入りです。ただし、演技中ということを考えるのであればスモーキーネイビーの衣装の方がスカートや背中の布に動きがあってよかったと思います。これはもう個人の好みの話。女優は華やかなレッドカーペットに立つ裏側で、オーディションを勝ち抜き、演技力向上やスタイルキープにたゆまぬ努力を重ね、醜聞にも耐えて笑顔を作っているのです。それは女優だけでなく、フィギュアスケート選手にも言えることなのではないかと思いました。だから彼女の2016-2017シーズンの怪我からオリンピックでの復活を重ねながら観ていました。そんな意図はないのかもしれませんけどね。2015-2016シーズンのLP"ため息"が僕としては大ヒットプログラムだったので、3年スパンで僕のお気に入りを滑ってくれているということになります。だから次は2021-2022シーズンにヒット作出ますよ。

4 シャルレーヌ・ギニャール&マルコ・ファブリ(イタリア)
2018-2019シーズン FD"ラ・ラ・ランド"


"ラ・ラ・ランド"2プロ目のランクインです。こうなってくると、単に僕が曲を好きなんじゃないか疑惑が浮かびますがそんなことはありません。これは普通です。自分の昔から夢と、愛する人との幸せな将来を両天秤にかけて揺れ動く心理が、サーキュラーステップと移動距離ありすぎなシンクロナイズドツイズルで表現されています。2018-2019シーズンのように、ツイズルでの独創性がそれほど重要視されていない頃からツイズルには凝っていたので、お茶の子さいさいです。1つ目のリフトはカーブリフトからローテーショナルリフトに変更されました。このカーブリフトが地味だし浮いていしGOEも低かったので変更してくれて本当によかった。コレオステップの部分は2人の幸せな将来を取ったパターンを想像したシーン。でも、結局自分たちの夢を優先して別れ、お互いに成功を収めるわけです。4分間のフィニッシュは「これでよかったんだよね」と目線でお互いに語りかけているのです。ストレートラインリフトからコレオリフトの浮遊感がフィニッシュの切なさを際立たせます。2人がリアルカップルだから、余計に物語がダイレクトに伝わってきます。このプログラムがあったから、万年国内2番手に甘んじていた2人が、グランプリファイナルやヨーロッパ選手権の表彰台に立てました。ララランダーの皆様は、これから常にギニャファブと比較され続けるのです。これには並大抵のプログラムでは敵いません。

3 ライラ・フィアー&ルイス・ギブソン(イギリス)
2018-2019シーズン FD"ディスコメドレー"


2018-2019シーズンの第1位はこちらです。秋の時点で確定していました。こういったプログラムが1シーズンに1つは欲しい。そう思わせてくれる最高のディスコメドレーです。彼らもシーズン中に振付に手を加えました。コレオステップはもっと男女の距離が空いていましたが、男女のコンタクトと交差を増やして、ダンスっぽさを強調しました。だからシーズン序盤とは男女の踊る位置が逆になっている部分があります。このコレオステップで驚かされるのは「え?男性こんなに踊れるんすか?」というところですよね。失礼ながらめちゃくちゃ踊れなそうなのに体がギュインギュイン躍動します。そのギャップもポイントです。ローテーショナルリフトは、直前のトランジションを変更しました。また、回転中のポジションはキャッチフットから足を伸ばすようになりました。回転から上下させる振付がポイントです。これは絶対に盛り上がります。手拍子せざるを得ないでしょう。競技会では手拍子しないマンの僕でも手拍子したいです。カーブリフトは入る位置が逆になりました。変更前はジャッジ席側から、変更後は客席側からです。ここでちょうどスローパートに入るので、変更後の軌道の方が滑らかに見えます。シーズン中に、アイスダンス的にどうした方が美しく見えるかというのを的確に分析できていますね。エネルギッシュだったけどラフでもあった演技が洗練されました。中堅カップルでは難しいワンフットステップもリンクの外周を縫うように進んで曲の疾走感と相まってかっこいいし、コレオツイズルでまたギュインギュイン踊るし、コレオスライディングでキャーキャー言われるし。テンションが上がらないパートがないんです。アイスダンスではプログラムの出来不出来が順位に及ぼす影響が大きいです。満塁ホームランを飛ばしたからこそ、ごぼう抜きができました。これは2019-2020シーズンの選曲難しいぞー。女性の衣装は初期の地味なものが似合っていたかなと。水色のキラキラ衣装はプリキュアに見えます。

2 アダム・リッポン(アメリカ)
2016-2018シーズン LP"O"


最初は2015-2016シーズンのエキシビションでした。2017-2018シーズンのLPに使用する考えがあったそうですが、2016-2017シーズンで競技用プログラムとして採用し、翌2017-2018シーズンも持ち越しました。2016年に読んだインタビューでは「オリンピックシーズンにはもっといいプログラムを用意できる自信がある」と語っていたのですけどね。エキシビションとして初披露したときから、その完成度には圧倒されました。プログラムのストーリーは「群れのリーダーの鳥が羽を怪我してしまった。しかし力を再び取り戻し、勝利のために自由に飛び回る」というものです。2016-2017シーズンと2017-2018シーズンの振付が丸っきり違うのは、2016-2017シーズン中に骨折をして、そこから復活するというのを重ねたからだと思います。だから、新振付の方は鳥要素がかなり薄くなっているというか、全然怪我してないっぽいというか、徹頭徹尾リッポンがリッポンを演じているように見えました。だから僕が好きなのは、設定したストーリーに忠実な2016-2017シーズンバージョンです。音楽が進むにつれて徐々に腕の動きが増え、生命力溢れる表現を見せてくれました。振付変更後はコレオシークエンスからスピン2つのフィニッシュになってしまって、コンセプトがぼやけていました。リンクという大空を縦横無尽に飛び回り、高速のコンビネーションスピン1つでフィニッシュという流れの方が好きです。アシュリーの"ラ・ラ・ランド"のようにスケート人生が重なって、いい作用を生み出すものもありますが、やりすぎは禁物なのです。

1 樋口新葉(日本)
2017-2019シーズン LP"007"


受賞しても特に栄えない第1位は新葉ボンドでした。"007"のプログラムがトップ10に2つも入りましたが、映画や曲が好きなわけではありません。2016-2017シーズンLP"シェヘラザード"で女性らしい表現を身に付けたので、てっきり最初は「オリンピックシーズンにベタなやつパターンねーーーセクシーなボンドガールねーーー」と思って箱を開けたらあらビックリ。女性版ジェームス・ボンドを演じているではありませんか。猛スピードから冒頭の3S(もしくは2A)の幅の迫力よ。拳銃構えなくても、彼女のジャンプと爆走スケーティングが弾丸ですね。シリアスな"Skyfall"へと音楽が切り替わり、緊張から解き放たれるように3Lz-3Tを射出します。最後のジャンプが踏み切りに課題のある3Fというのがいい味出してます。不可能と思われるような仕事をやり遂げるボンドの姿ここにありですよ。ステップシークエンスのロッカーカウンター連続ツイズルの滑り出しがかっこいいです。彼女は右足でのツイズルが得意なようなので、アイスダンサー並みのぶっ壊れた移動距離を叩き出せるのですね。険しい表情でのニースライド、そしてダイナミックなファンスパイラル、軸の乱れないレイバックスピンでクールにプログラムをまとめます。今まで女子シングルの選手が演じる"007"でここまで魅せられたことはありませんでした。衣装としてはブルーのドレスが素敵なのですが、ボンドになるのであればブラックの方が似合っていますね。新調してよかったです。

選出と執筆に3週間かかりました。

カテゴリー 男子4:女子8:ペア5:アイスダンス13
シーズン(続行したものは1シーズン目のプログラム扱い) 2016-2017 9:2017-2018 11:2018-2019 10
所属国 アメリカ8:カナダ7:フィンランド・日本3:ロシア2:中国・チェコ・フランス・イギリス・イタリア・韓国・ポーランド1

僕のベストプログラム選出理由はざっくりこの4種類に分類できます。
1.現状の打破
2.革新性
3.選手のバックグラウンドとドラマ性
4.曲が好き

これらに該当する数が多いと上のランクになります。

自分でもこんなに男子のプログラムが候補に上がらないかな?と思って、過去3シーズンのプログラムの一覧を目にしていったわけですが、ほとんど出てこなかったです。「4回転ジャンプがあるからトランジションや表現はしょうがないよね……」が、知らず知らずのうちにめちゃくちゃ効いていたんだと思います。

意外にも、保守的な選曲傾向の強かった2017-2018シーズンから最多11個がランクインしました。でもオリンピックで観られたのはウィバポジェのSDとパイポーのFDだけですし、ヴァネシプやリッポンは持ち越しでした。持ち越しプログラムを使うのは戦略だから文句はありません。が、前シーズンの印象を超えることは極稀なので、2017-2018シーズンはプログラムではなくパフォーマンスそのものを楽しむことにシフトしていました。2018-2019シーズンはおもしろいプログラムが増えたので嬉しかったです。2019-2020シーズンは僕が4年間で最も好きな中間年です。めっちゃ攻めてほしいです。

歴代のベストプログラム
2015-2016シーズン 宮原知子 LP"ため息"
2014-2015シーズン ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン FD"ピアノ協奏曲第23番"
2013-2014シーズン 町田樹 EX"白夜行"
2012-2013シーズン ネッリ・ジガンシナ&アレキサンダー・ガジ EX"Dance My Esmeralda"
2011-2012シーズン ジェレミー・アボット SP"素敵なあなた"
2010-2011シーズン シニード・カー&ジョン・カー FD"交響曲第3部あがない"
2009-2010シーズン チン・パン&ジャン・トン LP"見果てぬ夢"

過去のベストプログラムへのリンク
2015-2016シーズン
2014-2015シーズン
2013-2014シーズン
2012-2013シーズン
2011-2012シーズン
2010-2011シーズン
2009-2010シーズン
若い頃の自分のノリがヤバい。
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