2016
07.31

2015-2016シーズン パトリック・チャン

パトリック・チャン

スケートカナダ 優勝
エリック・ボンパール杯 5位
グランプリファイナル 4位
カナダ選手権 優勝
四大陸選手権 優勝
世界選手権 5位

SP:Mack the knife
LP:ショパンメドレー
EX:Mess is mine
EX:ビートルズメドレー

初代衣装は、クリスマスの朝に新聞を読みながら「プレゼントを開けていいよ」と2人の子供たちに微笑みかけるお父さん衣装。2代目の衣装は巨乳数学教師。大きく変わったわけではないので大して突っ込むところではないのですが、僕は初代衣装の方がプログラムに合っていたと思うんですよね。マックという殺し屋の噂話をする人々の歌らしいので、クリスマスの朝のお父さんの方が庶民感が出ます。わちゃわちゃと駆け出して、エグインサイドエッジに乗って方向転換。あっという間にトップスピードに乗って4T-3Tを跳びます。そしてアウトからインにチェンジエッジしてただ滑るだけ。滑るだけなのにこの迫力。全く位置がブレないつま先まで伸びたフリーレッグも相まって芸術的。トランジションのツイズルの後に肩をワナワナ震わせるのは、殺し屋マックの恐ろしさによるものでしょう。3Aに向かうところでは左足インでのクロスロール。みんなやることなのに、こんなにながーーーくふかーーーくされると、別のものに見えます。ステップに入っていきなりの難しいターン。ブラケット~カウンター~ダブルツイズルのところ。カウンターがグイーーーンと加速するのがすごい。普通の選手ってターンでこんなに進めます?6秒でリンクの半分まで到達するってすごすぎません?膝をスライドさせて立ち上がるときにはもうエッジを倒して次の動きに入ります。隙がありません。プログラム全体にホップを多用しているのにも関わらず、きちんと滑ってもいる。シンプルな動きの質が卓越しています。江戸前の1貫ウン千円するような握りがポンポン出てくるような感じです。職人芸です。

SPは4Tの助走のところにピョコンとジャンプを1つ入れたのと、キャメルスピンがシーズン最初と最後で変わっていました。LPは2本目の4Tの助走が少し変わったのと、キャメルスピンがやはり変わっていました。でもほとんど手を加えていません。冒頭の4T-3Tの後の左手の振りと一緒に滑っていくところ、この柔らかさがたまりません。昔のPさんならこの振りが手旗信号になっていたと思うんですよね。本当に変わったと感じます。前半の3つの難しいジャンプを終えて、すぐにステップに入ります。ステップが進むに伴い、革命のエチュードの旋律も激しくなってきますが、それに付随するようにPさんの滑りも強さと熱を帯びてきます。体を残してトテトテと駆けてから、ロッカー~カウンター~ダブルツイズル、左腕を下げて右腕だけ上げてのポーン。この流れの美しさよ。ここから淡々と強くなっていくかと思えば、ジトーっとしたガニマタイーグルがあり、急にストップ。そこから静かにステップをまとめます。出るところの半時計回りで胸に手を当て、時計回りで感情をフッと放つような自然な振付が素晴らしいと思います。40秒のエレメンツの中で緩急と感情表現が何度も入れ替わっていく。複雑でレベルの高い攻勢だと関心させられます。プレリュードに音楽が変わって、それまでよりもセンチメンタルな音楽表現へと移ります。ダイナミックな3Aや3Lz-2T-2Loも物憂げです。でも弱弱しいわけではありません。音符と音符の間さえも捉えて組み込んだ3Loで見せる芯の強さ、その強さは奥底に持っています。このプログラムで僕が再三申している不満な点。コレオシークエンスの移動距離が短いところ。Pさんのプログラムのコレオエレメンツが大好きで、オペラ座の怪人のコレオステップのダイナミズムや、ラ・ボエームのコレオシークエンスに込められた悲嘆。それらが爆裂スケーティングと融合するところがよかったんです。だから短いのは嫌!もっと見せろ!もしくはコンビネーションスピンとコレオシークエンスが逆でもしっくりきたかもしれない。いや、コンビネーションスピンじゃなくて全部コレオシークエンスがよかった。短いのは嫌!もっと見せろ!そんな感じなんです。4分40秒ギリギリの振付なので、これ以上は足せないですし、はあ・・・・・妄想で振付足しとこ。表現は素晴らしく、冷静と情熱、落胆から自分を奮い立たせ「俺、生きてるぜ」みたいなパワーを発してのフィニッシュはすさまじかったです。衣装は上よりもパンツが気になりまして、サイドと尻のラインみたいなやつは一体。

久しぶりにワールドの表彰台から陥落することになった演技を見ましたが、あれはジャンプの失敗で音楽から遅れておりまして、なかなか追いつけず、微妙なズレが生じたまま終わったことも印象の悪さに繋がったと思います。ショパンメドレーは、Pさんが持つ技術の高さと音楽との完璧なシンクロを楽しむものです。だからジャンプを抜きにして考えても、四大陸よりも「あああ・・・・・うーん・・・・・」という印象が強くなってしまったのでしょう。最後に、僕はファイナルの演技があまり好きではありませんでした。わざわざ別個でファイナルの結果をおさらいするエントリーまで上げました。それは、ジャンプを成功させること≠神演技だと考えているからです。ファイナルの演技は冒頭から動きが硬く、緩急が乏しかったです。前半が強調されすぎて、演技としてはいびつな印象を受けました。自分の感覚が絶対に正しいと言うつもりはありません。ただ、大勢に流されてに肯定するのは楽だけど、性格の悪い捻くれたブログを書き続けてきた僕っぽくはないなと思いました。そのファイナルでの印象を四大陸で見事にひっくり返し、今後数十年語り継がれるようなパフォーマンスを見せました。フィギュアスケーティング、その1つの形を見たような気がします。

エキシビションのビートルズも素敵で、カーニバルオンアイスで披露した演技を見て好きになりました。でも、りっぽんぽんのせいで1 2 3 4 デデデデデデデデ デデデデデデデデって入れてしまう病にかかってしまいました。罪深きりっぽんぽん。

世界選手権後に引退!?との報道があり、ヒヤヒヤさせられましたが、すぐに「続けるわー」とのコメントが出てホッとしました。4Sを習得すれば戦うことは可能です。苦手な3Aも2本入れてレベルアップしましたし、この調子で手にして欲しいです。ずっとベテランだと思っていたPさんも今シーズンには26歳になります。本当のベテランになりました。2016-2017シーズンは、エリック・ラドフォード作曲でLPを滑ることを発表しています。賭けになると思いますけど、世界チャンピオンクラスの選手にはどんどん挑戦して、表現の極地にまで到達して欲しいので、ラドフォードさんの曲がとても楽しみです。パトリック先生の次回作にご期待ください。
Comment:6
2016
07.13

2015-2016シーズン 宮原知子

宮原知子

USクラシック 優勝
スケートアメリカ 3位
NHK杯 優勝
グランプリファイナル 2位
全日本選手権 優勝
四大陸選手権 優勝
世界選手権 5位

SP:ファイアーダンス
LP:ため息
EX:Pennies from Heaven
EX:翼をください

ミス一覧
USクラシック・・・SP3Fアテンション、LP3Lz転倒アンダーローテーション
ジャパンオープン・・・オールレベル4ノーミス
スケートアメリカ・・・SP3Fアテンションアンダーローテーション、LP3Fアテンションアンダーローテーション・3Lz転倒アンダーローテーション
NHK杯・・・SP3Fアテンション、LP2Aアンダーローテーション
グランプリファイナル・・・SP3Feマーク
全日本選手権・・・SP3Fアテンション、LP2Loダウングレード
四大陸選手権・・・オールレベル4ノーミス
世界選手権・・・SP3Fアンダーローテーション
チームチャレンジカップ・・・オールレベル4ノーミス

つおい。これから分かるようにフリップのエッジをクリーンにできるかが課題ですね。フリップはエッジに気が行き過ぎるのか、回転も危ないときが多いようです。でも、2015-2016シーズンはセカンドトリプルの回転不足が1つも獲られなかったというのは成長の証です。昨シーズンは3度セカンドトリプルの回転不足がありました。この大技で失敗しないところがミスパーフェクトたる所以です。全大会で、きちんとコンボ消費しきったのも素晴らしい。

SPのファイアーダンスは新境地。これで彼女に落ちたという方も多いのではないでしょうか。初戦のUSクラシックとスケートアメリカとの間、1ヶ月程あったんですけど、この間に振付に手を加えました。まず3Lz-3Tに向かう助走のところで腕の開き方を変えて、ゆっくりと左右に開くようにしました。パッと開くよりも音楽の重みが表現できるようになりました。フライングキャメルの後に立ち止まってからピョコピョコと跳ねる振付。ここにも手が加わりました。いきなりピョコピョコしていたのを、腕を下からパーっとひまわりのように広げて、ステップの始まりを煽っていきます。この修正もよかった。ステップの終了で立ち止まってジャッジの方を向いての振付は、手を顔の横にやるものから手招きして挑発するような女性的なものに変わりました。スケートアメリカからNHK杯ではステップの途中の振付やタイミングに変化がありました。観客サイドからジャッジサイドに方向転換したときに、前はポーズをパーンととっていたのが、足を蹴り上げるようになりました。その直後にブラケットをするんですけど、ブラケットの後の姿勢をのけぞるように変えました。この1ヶ月の間には動きにバリエーションをつけてきました。8大会の演技を全て見返しましたが、変わったのはこれぐらいでしょうか。

3Lz-3Tの着氷後に右足だけで滑り、顔を伏せる振付。この表情が素晴らしいです。男の愚かさを悟るような女性らしい表情です。レイバックスピンからのトランジションと音楽とのマッチも素晴らしい。フライングキャメルの後の腕を開いてくるくるピョンピョンする振付は、2015-2016シーズンのモノマネしたい振付ランキング第1位です。ステップの前半部分のタイミングが、ほとんどの大会で狂いがなくて、いかに滑り込んでいたかが分かります。だから安定して音楽を表現できているのだなと。手で氷をさらうような振付がいくつもあって、それがまるでフラメンコで着る長いドレスのスカートのはためきを表現しているかのようでした。手で動きの流れを作って、そこに続くように体を動かす。それがスカートのように見える。すごく考えられたステップだと思いました。ツイズル~ループ~腕を開いてがに股。ステップの緊張感をほどいていくように緩やかにエレメンツを終え、指を折りながら男をそそのかす。「あたしを捕まえてみな」という具合にトップスピードに乗り3F、2Aと畳み掛けるようにジャンプを終えます。散々男を弄んだ挙句、男に頼らずとも生きていけるという強い女性像を提示したような、そんな演技でした。ディクソン、このプログラムに全身全霊を注いでパワー使い果たした説。

2015-2016シーズンベストプログラムのため息。シーズンの途中から加えた3Lz-2T-2Loの最後のタノが生きています。これが正しいタノの使い方ですよ!この控えめ加減。減塩味噌ぐらい控えめ。その後に駆け寄って行く振付は、実際に近づいていくというよりも、むしろ「大好きな人に近づきたい」という感情の表れなのではないかと思います。好きな人への思いを募らせていくかのように丁寧に、でも強さを増していくステップ。先述の駆け寄って行く振付の直後のブラケットとステップの終盤のブラケットが対になっていて、「よし話しかけるぞ」と決意する女の子のように見えました。3Fへと向かう助走で右手をバンッと出すところが、まさにそれです。コンビネーションスピンはいざ!と歩みを進めたのに、やっぱり無理だと引き返してしまう様子を逆回転で表現していると妄想しました。残念ながらコンビネーションスピンの後の顔を伏せる振付が、シーズンが進むにつれてなくなってしまったのですが、アチャーと顔を赤らめる王道少女漫画の主人公っぽくてかわいかったです。なんでなくしたんですか!おい!1番好きだったのに!フライングキャメルの後の駆け寄る振付は、全日本までが好きな人の後ろを付いて行く感じ。そして四大陸からが好きな人の正面から突っ込む感じ。でもどちらにしても結局話しかけられないまま終わってしまう。コレオシークエンスはしっかりとエッジの丁寧さを見せ付ける彼女の王道パターンです。これはスパイラルで足を下ろす瞬間まで神経を行き届かせて、ワルツジャンプでクルッと締めます。レイバックスピンはロシア女子のような脅威の軟体スピンではありませんが、しっかりと高評価を獲得しています。単なる柔軟性に限らない「やわらかさ」ってありますよね。ラインの醸し出すやわらかさ、空気のやわらかさ。そういったものが大いにプラスに働いているのでしょう。告白できなかったから諦めてしまおうかな・・・でも思い返してみると、やっぱ好きだな。そんな多くの人間が学生時代に心に宿したであろう感情を氷の上に具現化してくれました。全日本までが高校の教室、四大陸からが大学の図書館。そういった趣でした。大きく振付を変えたわけではないのに、空気が一気に変わりました。衣装のスカートのボリュームが素晴らしかったです。ピンクのひよこみたい。体が小さいので、衣装で大きく見せることは大切です。

エキシビションの動画リンクは、せっかくなのでショウマ・ウノさんの紹介してくださったスケートアメリカとTCCを貼っておきました。ティリティリしている傘を持ったペニーズフロムヘブンは、こんな洒脱なものを演じられるのかとびっくりしました。ツッバッサヲクダッサイは英語版でよかった。日本語だと笑ってしまうし、ボーカルなしだと寂しいので。腕のヒラヒラはカーテンみたいになっちゃう人多いのに、おかしくならなくてよかったです。腕の真ん中の部分の布を1番長くすればバランスとれるのか。ヒラヒラ衣装を使う少年少女のお母さんたちはマネしてみましょう。

大先生が大先生たる理由を抜群の安定感から示してくれました。ここぞというときに頼りになる、失敗しないのが宮原知子です。ワールドでは惜しくもメダルを逃しましたが、こんなこともありますわな。何か言われるような結果でも内容でも全然ありませんでしたからね。西岡さんが「新時代のミスパーフェクト」と実況でおっしゃったので、「あ、それ言っていいんだ」ということで、せきを切ったように言われるようになりました。僕も言うようになりました。そのパーフェクトっぷりが新しいシーズンも楽しみです。新しいLPのテーマが平和と愛ということで、また新たな一面を見せてくれることでしょう。ミスパーフェクトではあるけれど、女王ではない。女王というよりは姫。和服を着たお姫様。それが宮原知子大先生。
Comment:8
2016
07.11

2015-2016シーズン ジェイソン・ブラウン

ジェイソン・ブラウン

オンドレイネペラトロフィー 優勝
スケートアメリカ 3位
アイスチャレンジ 2位

SP:Love Is Blindness
SP:Appassionata
LP:ピアノレッスン
EX:Canned Heat

頭おかしい1つ目のSP。シーズンオフの振り付けの映像が出た時点で、ステップの休憩や力の抜きどころのなさに驚愕し、これほど要素を詰め込んでも人間は演技をし続けられるものなのかと思いました。最初の3Aの入りは慎重に。普通のバレエジャンプをすると見せかけて、反対側に体を回して入っていくフライングシットがかっこいい。そこからリンクの左端までクロスで進んでから、フリーフットである左足をクイッとさせた、その置き方がなんともオシャレ。チョクトーで方向転換して蝶ネクタイをキュッキュッとしてからの3F-3Tもいいです。着氷後に片足で滑る振付とトゥステップが、その直前のチョクトーの雄大さと対称的で、お茶目な部分を一層観客に伝わりやすくしていると思います。チェンジキャメルの出でフリーレッグを振り子のようにして、それに続くように両腕をブンッと振る動きは、「もういっちょやったりますか」とフロアで踊る彼の様子を見せているようでした。稀代の鬼ステップは一切休むところがなくて、前半でスタミナを使っていると露骨に疲れが見えてしまう危険なものです。チョクトーからループ、その回転のまま足を踏み変えてホップ。さらにホップを入れてキック。足がプルプルしそうな前半部分。後半部分にターンがたくさん入っていて、ここは音楽に合わせるのが難しそうです。実際きっちりと合わせられていたようには見えませんでした。そういったところがプログラムを変えるに至った理由の1つにあるかもしれません。ガチムチになる前のソチシーズンの演技と比べると、エッジが深くなって、押して押して滑っているような感じは緩和されてきたと思います。それでも、クロスの音楽とのマッチングにはまだ課題がありそうで、これから改善して欲しい箇所の1つです。ステップはスケートアメリカではレベル4を獲得できましたが、+1.20の加点だったので全てのジャッジからは+2はもらえませんでした。地元でこの評価だったので、まだまだ足りないということなのでしょう。このアップテンポな選曲はブラウンとしてはかなり挑戦的なものでしたから、中間シーズンとしては正解でした。完成形を見たい気持ちはありました。

TCCで披露した新SPは、LPのしっとり路線を持ってきた反則だろ感もありつつ、こんなの滑ったら高得点出るに決まってるじゃん感もあります。いきなりスパイラルでグッと演技に引き込みます。旧SPと違い、フリーレッグを動かして魅せるのではなく、静止させ指先の動きでアピールする。そんな3A前に向かう前のリンク右端の助走。湛えた悲しみを振り払うようにフォアで突っ走り、流れのあるステップから入る3F-3Tの工夫。そして、3Lzの前にも手を広げてフォアで派手に走って行きます。前のプログラムならこのような構成は、細々としたステップから浮くと思いますが、この音楽だからこそ成立すると感じました。3Lzを着氷したときのフリーレッグと腕の角度の美しさ。これも素晴らしいです。スパイラルを多様したことにより、LPとの差別化は失われてしまいましたが、計算しつくされた構成でした。

LPはピアノレッスン。ピアノレッスンという選曲が出た時点で、まず演じるハードルが上げられます。デロションのプログラムがあるというのはもちろんなのですが、この音楽はとてもいいので、どのスケーターが滑っても大抵いいプログラムになってしまうんです。三大いいプログラムになりやすい曲はピアノレッスン、エデンの東、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番。曲の助けが借りやすいですしね。僕の中で見る目は厳しく、合格ラインの高さが何十年も世界記録が出ない走高跳のバーのような状態に加え、怪我明け、さらにはワールドが終わって完全に気の抜けていた僕の目に飛び込んできたTCCの演技。ラインをパーンと跳び越えていきました。ジャンプ構成を落とし、後半の3Aの入りが簡単になり、、コンビネーションスピンがやや簡素になり、3Fの前のバレエジャンプがなくなっても、それでも跳び越えていきました。2Aの前の大きなファンスパイラル。これでまず引き込まれます。よく男子選手のスパイラルやスピンを賞賛する言葉に「女子選手並みの~」というものがありますが、いやいやそういうのじゃないんです。これは男子選手だからこそ美しい。身長もそうですし、たくましい筋肉があるから女子選手とは違った趣が感じられる。悲哀の中にあっても失わない芯の強さ。そのようなものさえも感じ取ることができます。緩急のついたステップではディープエッジを見せる一方で、踊りの美しさでもうっとりとさせてくれます。お客の来ない寂れた雑貨店のショーケースの中で踊る人形のような、たくさんの人の目に映りもしないけど、いつか誰かが自分を見つけてくれる日を待っている。闇の中の一筋の光を掴むような。ポエムが止まらないです。指先を見つめてからアラベスクスパイラル、ウォーレイ、3Lz、3F-3T、2Aと畳みかけるように要素をこなして絶品のコレオシークエンスへ。特別変わったことをしているわけではありませんが、ここまでの振付をまとめ上げる美しいエレメンツです。髪に触れ、後ろを気にするように入る3Lo。不安を抱えつつも前に踏み出そうとする感情表現になっていると思います。終盤に向かってゆっくりと暗雲が取り払われていくようなプログラムです。TCCの演技は2015-2016シーズンの全選手の演技の中で5本の指に入る名演だったと思います。ブラウンの演技を見られただけで、TCCを開催した意義がありました。これに4回転が加われば190点が見えてきます。

ボーヤンと昌磨の躍進で一旦はヤバいかな?と思いましたけど、プレシーズン、そしてオリンピックシーズンにメダルに絡んでくる存在に成長できるか楽しみになりました。腰の怪我がなければもっと活躍を・・・とは思いますが、また全米選手権での活躍を期待しましょう。美女ゴールドやワールド銀アシュリーよりも、USAFAのブラウンへの期待度は高いでしょう。もちろんポテンシャルがあるというのもそうですし、時代が求める存在だからというのも理由です。でも気負いすぎず、いつも笑顔のブラウンでいて欲しいです。NHK杯での日本語披露お待ちしております。去年欠場になってしまったので、絶対に絶対に絶対に来てください。THE ICEにも出ますけど、NHK杯というのが重要なのです。
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2016
07.07

2015-2016シーズン エレーナ・ラジオノワ

エレーナ・ラジオノワ

中国杯 3位
ロステレコム杯 優勝
グランプリファイナル 3位
ロシア選手権 2位
ヨーロッパ選手権 2位
世界選手権 6位

SP:ジュテーム
LP:タイタニック
EX:Imagine
EX:Worth It

昨シーズンのロシア人体型変化担当大臣の役職を与えられてしまったラジオノワさん。細さをキープしているのですが、幼女体系だった1年前と比べると明らかに別のスタイルになっています。しかしながら本当によくジャンプを堪えました。なぜか失敗しない3Lz-3Tは顕在ですし、ジャンプ全体の成功率も非常に高かったです。

16歳から17歳のシーズンに、命を投げ打つような愛の歌を滑るラジオノワさん。生き急ぎすぎなSPです。しっかりとスピードに乗って3Lz-3T。このジャンプはすべての大会のSP、LPに1本ずつ入れていますがリカバリーを含めた成功率は11/14でした。軽さで跳べなくなったので、昨シーズンよりも助走がしっかりめになりました。元々ジャンプに高さがある方ではなかったので、これだけの成功率をキープできていることが不思議です。ジャンプの着氷からすぐに天を仰ぎ見て、ヒラリヒラリと動きを流していくところは女優。「私にとってエレメンツなんてオマケよ」と言わんばかりの風格。フライングキャメルは特別変わったポジションを取っているわけではありませんが、高速のキャッチフットから緩やかに回転して手の動きまで美しく処理するドーナツスピンが美しいです。出を「ダッコー」という歌詞に合わせているのですが、これはOKという意味らしいので、自分を納得させるような言い聞かせるような、でも諦めも含ませるような感情を風を切るような動きに乗せているのだと思います。コンビネーションスピンは思い出を掘り起こしているような感じ。ソロジャンプへの助走に入る際に左手を掲げるような動きは、回想中に感情を高ぶらせることが浮かんで、感情のスイッチがパチッと入ってしまったような、そのようにも受け取れます。3Fに集中するために3Loよりも助走が伸びました。点数を狙うためには3F、プログラムにハマっているのは3Loでした。苦手な2Aの質はよくなくて、どの大会でも+1が並べばいいかなという評価なんですけど、本来±0のものを+1にしてしまう凄みがあります。「私の2Aはこれで完璧なんです」そんな凄みです。2A本体で稼げなくても、ステップのGOEを引き上げるための間接的な要因にはなっています。盛り上がりから入っていくのと、何もない状態からいきなり激しく動かすのとではジャッジの印象も違うでしょうから。身長が伸びた影響が1番出てしまったのはジャンプではなく、体の動かし方の方でしょうか。あまり大きく動かしてしまうと体が振られてしまうからか、腕の動きが小さくまとまっているんですよね。背中から動かせていないから連続で動きを見ると、いくら腕の曲げ伸ばしで展開を作っても一本調子に見えてしまうという。振付自体は好きなんですけどね。ステップに入ってから2回目のジュテームジュテームの後の左手を出しながら後ろ向きになって、両足で右回転、ループで左回転と方向転換するところがこのプログラムで1番好きな箇所です。コントロールができるようになれば滑りこなせるのになというプログラムでした。ボーカルはうるさいですけど、こんなものはLPに比べればどうってことはありません。

ジョリヘンと一緒に滑らせたいプログラム部門第1位タイタニック。両方ともセリフの存在感が強いから、いっそ共演させてしまえばいいという理由。いつか実現して欲しい。3Fの直後にいれた緩いダブルスリー、これはSPの3Lz-3Tの直後の動きと同じようなプログラムの隙間を埋める女優魂的細やかな振付。ステップ中の音源をヴァイオリンにしてボーカルなしにしたのは大正解だったと思います。タイタニックの浸水が始まってジャックを助けないと死んでしまうという緊迫感と焦燥感、そして体の動きが水の流れを表しているようでもありました。もちろんもっともっと美しく体を使えればポイントは高くなっていたわけですけど、今できる最大限のことを見せていたのだと思います。キャラクターの名前に合わせたローズのついた緑色の謎衣装は、似た色味のはあるみたいなんですけど、こんなに色が分かれてはいないので失敗。ローズの部分の色の上に、透けたグリーンを被せるみたいなものなので、競技用では難しそう。だから僕はこの緑色は大西洋の冷たく暗い海の色ということにしました。ここにジャックが沈んでいくのです。どうにか急場を乗り越えて脱出はしたものの、救命ボートがあるわけではなく、冬の海でジャック凍死。そして唐突に始まるセリーヌ・ディオンのボーカル with ビートズンチャッチャ。これがこのプログラムのうるささの原因。とにかく急すぎて。ストーリーの流れを知っている人だと順々に組み立てられていることは分かりますが、知らない人が見たら「えwwwwwいきなりwwwww」となることは必至です。ここでセリフなし&オーケストラの音源にすれば丸く収まる気もするんですけど、そうするとステップのヴァイオリンの音源との強さバトルに後半部分が敗北してしまう恐れが出てきます。よって、ボーカル with ビートズンチャッチャは誕生するべくして誕生した構成だった・・・のかもしれない。それにコレオシークエンスはリンクを広く使う非常に僕好みのやつですので、うるさいぐらいがちょうどいいのかな。ダイナミックにしないといけませんものね。コレオシークエンスは最後に控える2Aを盛り立てる役割もありますし、ダイナミックに・・・そうですね。これはそういうものだったんです。ラジオノワはリンクを駆け回るタイプなので、そういうところは非常に好きです。だって30×60もあるのにいっぱい使わないともったいないじゃないですか。ブッフェも一通りのメニュー手をつけておきたいじゃないですか。そんな理由によるリンク広く使う選手好き理論。よく言えば動きに特徴がある、悪く言えば動きに癖があるので、どちらの振付を依頼したかは定かではありませんが、シェイリーンにいい感じに洗練させて欲しいなと思います。

女優女優と申しておりますが、演技からキスクラからインタビューまで本当に女優だなと思う選手です。自分の中のフィギュアスケーター像というものを演じきっているように思います。バカにしているわけではなくて、素晴らしいことですよ。ミスをしてもそれをミスと思わせない力、それがあるだけでジャッジ1人のGOE+1分は平気で左右されますもん。僕はジュニアにデビューする前からラジオノワの表現が好きですし、ロシア選手の中では1番だと思っています。これからもまだまだ伸びて欲しい選手です。岡本知高風味の衣装でイマジンを滑ったり、イメクラのようなスクールガール衣装をまとい、エキシ要因としても欠かせないラジオノワさん。とにかくシェイリーンとの組み合わせが楽しみ。
Comment:4
2016
07.06

2015-2016シーズン ハン・ヤン

ハン・ヤン

スケートアメリカ 4位
中国杯 3位
中国選手権 2位
四大陸選手権 3位
世界選手権 26位

SP:Sing Sing Sing
LP:ロミオ+ジュリエット
EX:A Destiny

今シーズンもお茶の間をイラッとさせる振付を考案してくれたローリー。SPの冒頭は漕ぎを少なくしてスピードを出す工夫をしています。バックで1、2、3と準備運動をするように徐々に勢いをつけます。ここで「ここからハンヤンのショーが始まるのよ」とカナダからローリーのアナウンスが入ってくるようです。ブラケットを1つ入れてリンクの端まで行って、ここからクロスが始まります。でも直前までクロスを入れてしまうと、ステップからの4Tとは取ってもらえないのか極力省くように徹しています。まあ昨シーズンのSPと入り同じなんですけどね。でも違うのは後ですね。昨シーズンのイラップログラムは立ち止って次の動きに移行していましたが、今シーズンは流れを生かして足を上げ、膝をついてコンビネーションスピンに入りました。墨をつけ直さずに一筆書きで一気に書き上げたお習字のようです。頭をポンッと叩いてヘにょへにょするプログラムの第1イラッポイントがあります。その表情なんですかね?というものです。そこはおもしろいからいいんですけど、その直後の指をパチンパチンと頭上で鳴らす振付。あれはやらされてる感が強すぎ。ローリーに糸をくくりつけられて、上から引っ張られているような。3Aまでの振付は物足りないです。後半にジャンプを入れるための時間稼ぎのように思えてしまって、もっとこう・・・引くくらいに見せつけるようなイーグルスキルを体得して欲しいです。今のは「僕ハンヤンだよー!イーグルだよー!」という感じ。3Aがダイナミックで、ステップで細かい動きを見せるのだから、このトランジションでも細かい動きを見せて後半への盛り上がりに使うぞーぐらいの勢いが欲しかったです。3Aの入りは四大陸までは昨シーズンと同じでしたが、世界選手権ではロッカーから入っていました。昔の丁半博打レベルの成功率からは脱したので挑戦をしたのだと思います。成功はまたの機会に。3A降りた直後にやる右足プシュプシュする動きかっこいい。3Lz-3Tまでの助走はいい感じ・・・に思えて何か足りない。いや逆でした。邪魔なものを見つけてしまいました。3Lz-3Tが邪魔。ジャンプじゃなくてトランペットの音色に合わせたハンヤンの滑り見せてよ!となります。次このプログラムを見るときは、脳内でジャンプ消滅させます。傀儡子ローリーの操作から解き放たれリンクを入り回るハンヤン。ステップの最初がいきなりレベルを取るためのロッカーカウンターツイズルなんですけど、レベルを取りながらトップスピードに入るすごいやつ。一気にリンクの2/3まで滑ってきて、ダイナミック「へ」(コンパス風味)でジャッジの前まできます。ここでトコトコと駆け出すんですが、ここはちょうど「音楽が鳴り響いたら、みんな街へと繰り出す」という歌詞なのでそのような振付となっているんですね。きっとダイナミック「へ」はドアを蹴破ったのでしょう。ジャッジに指差しするのは、「スウィングしながら歌おうぜ」というお誘いのようです。だからジャッジのおっちゃんおばちゃんはスウィングしなければならないのです。左のアウトと右のインを深く使ったムーブメント、両足でえび反りジャンプ、まさにスウィングの動きでのフィニッシュ。ステップは本当に素晴らしい。昔の見ているこちらが顔を赤らめてしまうような動きではなくなりましたが、まだまだ改善する必要のある踊り心であったり、体や表情の使い方。ここはパンちゃんにスパルタでしごいてもらうしかないでしょう。

ハンヤンがロミジュリで演じているもの、見せたいものは、傍観者から見た立場であるのか、2人を包み込む闇なのか、渦巻く想念なのか。それは結局のところよく分からないから勝手に解釈するとしましょう。でも何を演じているにせよ、ストーリーに沿ったものであるということは間違いないでしょう。前半は3A-3Tと4Tが2つ。しっかりと点数を稼ぐために構成は無難な印象。前半のトランジション同士がワンパターンかなと。胸を張り顔を上げる以外の箇所が基本伏し目がちなのが気になります。抽象的なテーマにするのであれば、ジャンプから表情もきちんと表現の一部にして作り込まないと自己完結して伝わりにくいです。プログラムで1番最初にいいと感じたところは、コレオシークエンスの出のイーグルからのチェンジエッジ。コレオシークエンスは印象に残らないけれど、ここからのトリプルジャンプの流れはとてもいいと思います。後半に入ってからの最初のジャンプの3Aから、グッとインに倒した滑りが静寂の中での感情の高ぶりを表現しているようです。バルコニーでジュリエットと会話をしているロミオの気持ちが熱として伝わってくるような、そんなグッとくるインの滑り。そこから助走の少ない3Loすぐに振付、3Lz-2T-2Loという風に、ロミオに呼応するようにジュリエットも気持ちを高ぶらせていくような。そんな平穏さから一転して、親友のマキューシオがジュリエットのいとこのティボルトに殺されてしまい復讐をするロミオ。そんな復讐のシーンはスピンの間に終わっているようです。このシーンへの入りは3Sを配置することによって、ぶつ切り感の緩和を狙っているのだと思います。この映画の曲を使ってしまうとぶつ切りになるのは仕方ないので、少しでも和らげられてよかった。普段ならステップのリンクの使い方もっとがんばって欲しいというところなのですが、このプログラムのステップは蛇行を多様していて、それがティボルトを殺してしまったことの苦悩、ジュリエットへの思いなどの想念の表現に繋がっていて、これはこれでいいです。ロミオの年齢って16歳の設定らしいので、高校生はそういうものじゃないですか。思いが行ったり来たりって。でも個人的に解釈した結果、これ傍観者でも何でもなくて、単にロミオを演じていただけなんじゃないか?という結論に至ってしまいました。後半の振付がよく練られていて、ネタにされるほど悪いプログラムでもないんです。衣装は完全なる部屋着ですけどね。これをロミオ衣装で演じていれば、なんてことはなく受け入れられたのかもしれません。LPでの課題は高難度ジャンプを入れてもトランジションまで作り込まれたプログラムを滑るということ。トップ選手は助走、跳ぶ瞬間まで表現が洗練されているので、そこに近づけるようにするということでしょうか。苦手なコンビネーションの抜けが減ってきましたし、ジャンプ技術は向上中です。

日本人のヴァイオリニストの曲で滑ったエキシは、競技用プログラムよりも人気だったかもしれないやつ。でもこの曲普通に素敵だし、ハンヤンの滑りとも合いすぎてしまって、競技用だと1シーズン経つ前に飽きてしまっていたのではないかと思うんですよね。それにこのような正統派はオリンピックシーズンまでとっておいて、おもしろいプログラムで表現の幅を広げている途中なんですよ。たどたどしさはありながらも前進はしているわけですから。

今シーズンのプログラムはSPを新しくして、LPは据え置きのようです。LPを使い続けるのであれば前半部分の刷新と衣装は普通にお洒落なやつを希望します。(ハンヤン聞こえますか?脳内に直接話しかけてます。ツーブロック似合ってないから夏の間だけにした方がいいよ。)1番手の座をボーヤンにとられてしまいましたが、4Sにも挑戦するそうなのでまだまだ分かりません。よし、勝て!
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